ヨアン・ルクレー Yohan LECLERC

受賞作品
Les Saisons d’Ohgishima
Kan TAKAHAMA, Glénat
[翻訳者のコメント]私は、これまでも高浜寛先生の作品を翻訳する機会に恵まれましたが、高浜先生の歴史漫画を翻訳することは、いつまでたっても挑戦です。まず第一に、高浜先生の作品は非常に緻密な調査に基づいているので、正確に再現するためには、それに見合うレベルが要求されます。次に、登場人物たちは19世紀の方言を話しており、大げさにならないように気をつけながら、その錆のような独特の味わいを保つ必要がありました。しかし何よりも、この作品で描かれる長崎は、様々な人の「るつぼ」です。町人が話す言葉には外国語の語彙が混じり、西洋人は自分流で言葉を話し、現地のキリスト教徒は日本化された宗教用語を使い、遊女や侍はそれぞれに特有の言葉遣いを持っています。従って、言語的なパレットが非常に広いのです。しかし、異なる立場の登場人物同士が文化を通じて隣り合わせに存在しているのと同様に、彼らが対等に会話することを可能にするためには、それらすべての言語の色を1枚の同じ絵の中で共存させなければなりませんでした。
[受賞コメント]まず初めに、翻訳者の仕事を評価するという貴重な事業をなさっている小西国際交流財団の皆様に深く御礼申し上げます。また、この機会を与えてくださったグレナ社、とりわけ初めから私を支えてくださったブノワ・ユオ氏にも、心より感謝いたします。
そしてもちろん、原作者である高浜寛先生にも厚く御礼申し上げます。高浜先生は、同時代的な作品を描かれるときと同じように、本作品でも、19世紀日本、つまり、西洋への開国という社会が激動する時代に生きる南部の人々の生活を、繊細さと的確さをもって見事に描いていらっしゃいます。
私は、この作品で賞をいただけたことを大変うれしく思っています。第一に、多くの言語的あるいは文化的な繊細さをフランス語でどのように表現するかという試みは、難しいと同時にやりがいのある、まさに「挑戦」だったからです。そして何より、私は本作品の翻訳を手がける前から高浜先生の漫画の読者で、私がこの職業を選んだ理由の一つが高浜先生の漫画なのでした。まさに、すべてがひとつの環でつながったように感じています。
[あらすじ]1866年、明治維新前夜の長崎。日本の花鳥風月と異国の文化が交錯するこの島で、遊郭の子たまをは、姉女郎とともに、西洋人が住む地区、出島のオランダ商人邸に見習いとして入る。四季の移り変わりや様々な人々との出会いを経験する中で、たまをは「廓の外」を垣間みる。しかし、時の流れ、そして、取り巻く社会が、非情にも、彼女を待ち受ける運命に引き戻していく。
2020年手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した高浜寛の、『蝶のみちゆき』『ニュクスの角灯』に続く新作。遊郭で生まれた14歳のたまをが、早逝する宿命を背負い、美しくも残酷な季節を生きた物語。
選考対象 | : | 2023年9月1日から2024年6月30日に出版された日本漫画のフランス語翻訳作品 |
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グランプリ発表 | : | 第52回アングレーム国際漫画祭(2025年2月1日) |
選考委員 | : |
ブランシュ・ドゥラボード(漫画研究者) ジュリアン ブヴァール(リヨン第3大学准教授) グザヴィエ・ギルベール (「du 9」編集者) アントナン・ベシュレール(ストラスブール大学准教授) オロール・ロペス(E&H productionデザイナー) |
【第8回小西財団漫画翻訳賞 ノミネート作品】
