19e Prix Konishi de la Traduction littéraire
朝比奈 弘治
受賞作品
『子ども』上・下
ジュール・ヴァレス、岩波書店、2012年。
ジュール・ヴァレスの『子ども』は文学史のみならず、社会や歴史における子どもの存在を考える上で必読の文献としてしばしば引用される作品です。しかしこれまで、実際の内容はあまり知られていませんでした。親に手ひどく扱われる子どもの境遇をユーモア豊かに、そしてアイロニーを込めて描いた小説ですが、その独特の面白さを、朝比奈弘治氏は、原文とつかず離れずの絶妙なポジショニングによって、見事な訳文で表現されました。日本でほとんど紹介されることがなかったヴァレスの名作を、誰もが読めるものとした朝比奈氏の功績を高く評価し、授賞作に決定致しました。
マチュー・カペル
受賞作品
Odyssée mexicaine ―Voyage d’un cinéaste japonais 1977-1982
Kijû YOSHIDA, Éditions Capricci, 2013.
この作品は、映画監督吉田喜重が、自身のメキシコ滞在の経験に着想を得て書いたエッセーです。当時のメキシコの様子のみならず、芸術、生活、社会についての知的考察と、西洋の理論家や作家への言及が作品の中に散りばめられています。カペル氏は、映画の専門家としての経験と文化理論に関する深い知識を生かし、またプロとしての自身の翻訳技術を駆使して、作品全体の翻訳をこの上なく流麗に仕上げました。特にフランス語の質は傑出しており、エッセーの翻訳とはいえ、その文学的な仕上がりが評価され、受賞の運びとなりました。
ジャン=ジャック・チュディン
受賞作品
Errances sur les Six Voies
Jun ISHIKAWA, Les Belles Lettres, 2012.
チュディン氏は、日仏翻訳文学賞選考委員会のメンバーとして、長きにわたりこの賞に携わってこられましたが、2013年7月26日に逝去されました。キャリアを通じて数多くの作品を翻訳され、「フランスにおける日本文学の紹介者」としての貢献度は計り知れません。特にここ10年では、森鴎外『舞姫』をはじめとする約10作もの小説および短編小説集を翻訳されました。このたびの受賞作の石川淳『六道遊行』は、テーマ体系が豊富で、構造は不均質かつ複雑であり、とりわけ古典文学や仏教文学における文化的参照が充実している作品であるため、翻訳作業はたいへん困難なものであったはずですが、チュディン氏はその難関を乗り越え、質の高い作品として完成させました。チュディン氏が遺された偉大な功績に敬意を表すべく、特別賞を授与することと致しました。