『ペスト』三野博司氏1947年に刊行された『ペスト』は、カミュ自身がある手紙のなかで述べているように、三つの次元で読むことができます。まず、これは作者がみずから体験したレジスタンスから生まれました。カミュはナチスをペストに置き換えて、これに象徴されるあらゆる全体主義、戦争犯罪との闘いの物語を描いたのです。さらにペストは、「悪という形而上的問題の具体的例証」であり、人間を襲う暴力的な災禍、避けられない不条理のアレゴリーでもあります。そして三つ目の、いちばん素直な読み方では、つまり物語のあらすじだけを追えば、伝染病との闘いの物語です。2020年からの、コロナウィルスが猛威を振るうなかで、世界中でカミュの『ペスト』が読まれ、読み返される状況になりました。私自身は長いあいだカミュ研究にたずさわってきました。カミュに関する三冊目の本を書いたあと、出版の当てがあったわけではなく、自分の楽しみのために翻訳を始めました。さいわい『ペスト』が岩波文庫から出ることになりましたが、パンデミックの時期と重なったのはまったくの偶然です。 2021年4月、70年ぶりの新訳を出すにあたって特に心がけたことは、読者が途中で挫折しない本にするということでした。この小説は最後まで読んでこそ、その価値がわかると思います。読者が分かりにくいことばにつまずかず、物語の流れを見失うことなく、会話の場面ではだれが語っているのか迷うことのないよう、工夫をこらしました。あるフランスの研究者は、カミュが世界中で翻訳され、読まれているのは、扱う主題が人類にとって普遍的であると同時に、その文章が「簡潔、明快で、曇りがない」からだと述べています。新訳でも、それと等価の日本文を目指しました。 |
La Peste
Comme Camus l’a dit lui-même, La Peste, parue en 1947, peut être lue selon trois dimensions. Elle est née d’abord de la Résistance à laquelle l’auteur a participé en personne. Substituant la peste au nazisme, Camus a écrit un récit de la lutte contre tous les totalitarismes et les crimes de guerre que l’épidémie symbolise. Ensuite, la peste peut être considérée comme « l’illustration concrète d’un problème métaphysique, celui du mal », l’allégorie d’un fléau violent, de l’absurdité inévitable. Finalement, la troisième lecture est la plus simple : si l’on suit seulement l’intrigue, il s’agit du récit de la lutte contre une épidémie. Ainsi, lorsque le Covid-19 a commencé à sévir en 2020, La Peste a été lue ou relue dans le monde entier. |