『失われた時を求めて』吉川 一義氏『失われた時を求めて』(1913-1927)は、プルーストが生涯最後の15年を費やして書きあげた長篇小説である。20世紀フランス文学の傑作とされるこの桁外れの長篇は、読者がつまずきやすい難解な箇所にこと欠かない。翻訳作業のもっとも重要な目標は、原文のきわめて繊細なニュアンスとできるかぎり読みやすい訳文とを両立させることだった。この難題に加え、つぎの3点で先行訳を改善するよう努めた。作中の歴史・社会・芸術への暗示を解明する訳注、プルースト自身が参照した『ジョン・ラスキン全集』や「大画家」シリーズなど当時の資料から借用した図版、登場人物たちが口にする駄洒落やプルーストの文章を特徴づける長文にふさわしい表現、の3点である。さらに翻訳の各巻に付した「訳者あとがき」では、『失われた時を求めて』の新たな読解を開示するよう努めた。 私としては長年プルースト研究者として仕事をしてきたが、今度の翻訳を通じて、ようやくプルーストの大小説のなかへ入りこみ、その神髄に到達できたような気がした。これほど刺激的で楽しく、これほど知的かつ芸術的な発見に満ちた仕事をしたことはない。 |
À la recherche du temps perdu
À la recherche du temps perdu (1913-1927) est un roman à la rédaction duquel Proust consacra ses derniers quinze ans. Chef-d’œuvre de la littérature française du XXe siècle, ce monument hors du commun ne manque pas de passages obscurs contre lesquels on bute souvent. |