江戸川乱歩『吸血鬼』
もともと連載小説として掲載された『吸血鬼』は、江戸川乱歩が創作した日本の名探偵、明智小五郎の事件シリーズに属しています。 美貌の持ち主、畑柳倭文子は、金で動く女で、かつて悪徳実業家と結婚するために貧しい恋人を見捨てました。その後未亡人となり、今では三谷青年と関係を結んでいます。倭文子をめぐって毒による決闘が行われ、三谷青年が彼女を勝ち取ったのでした。そのときから、突然、唇のない謎の男が彼女を襲うようになります。倭文子と6歳の息子が誘拐されるという劇的な出来事の後、ついに明智小五郎が登場します。明智は、この事件には多くの謎があり、虚偽によって真実が隠されていることをすぐに見抜きます...。 この作品は、探偵小説というより、急調子な冒険小説です。私はリズムと味わいを再現するように努力しました。また、対話にも多くの注意を払いました。というのも、探偵のややもったいぶった皮肉を彼が発する言葉の中で表現しなければいけない反面、明智はシャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロほど高慢ではないので、過度にならないように気をつけなければいけませんでした。連載小説やガストン・ルルーの愛読者である私にとって、この本を翻訳することは本当に楽しいことでした。だからといってその作業が簡単だったわけではありません。小説のジャンルが問題になることはありませんでしたが、私はすぐに日本の文化についての知識の欠如という問題にぶつかりました。例えば、歌舞伎に関することなどです。これらの欠落を埋めるには多くの研究が必要でしたが、その成果は注釈として入れました。 『吸血鬼』は、明智小五郎が登場する長編小説の3番目の作品です。理屈からすれば、このシリーズの出版を『蜘蛛男』、次に『魔術師』と順を追って進めるべきだったかもしれませんが、結局、『吸血鬼』は最も賢い選択のように思えました。なぜなら、第一にこの本は、江戸川乱歩作品の中で、私が最も気に入っている作品の一つだからです。その上、この作品には、カリスマ的探偵、首をかしげたくなるような道徳観を持つ美女、肉体的・精神的怪物、「ドリアン・グレイ」を思わせる二枚目、芸術的殺人、サイケデリックな追跡、不可思議な雰囲気とある程度のユーモアの融合、といった、江戸川乱歩の読者が好きな材料が揃っています。明智の若い助手 -のちに「少年探偵団」シリーズで主人公となる小林芳雄- が初めて登場するのもこの作品です。 『吸血鬼』は、連載小説としての面白さに加えて、象徴的意味を強く持つシーンで溢れています。これは、被害者の倭文子が、井戸の底、棺桶、火葬場、製氷機と、次々と別の場所に閉じ込められていく数章で特に顕著です。読者は、生き地獄から出てきた若い女性を見て、これほどの道のりを経た彼女は贖罪にたどり着き改心するのだろうと思ったに違いありません。しかし残念ながら、芥川龍之介の短編小説『蜘蛛の糸』の主人公のように、彼女はつかんだチャンスを台無しにして失敗を繰り返し、当然の結末へと導かれます。伝説の吸血鬼は犠牲者の生気を吸い取る残酷な存在として描かれています。そういった意味で、男を破滅させる倭文子こそ、この物語の真の「バンパイア(吸血鬼)」、つまり「バンプ(妖婦)」なのではないでしょうか。 |
EDOGAWA RANPO, Le Vampire
|